この翻訳は、NHK World Radio Japan が2017 年11 月23 日18 時(日本時間)に放送したブラジル語のニュースの中で、日系四世の日本定住ビザの開放について「コメント」の形で伝えた内容を、ニッケイ新聞2017年11 月25 日5 頁において記事として掲載されたものを翻訳したものである。この放送は複数の言語で行われているが、この記事の内容についてはとりわけ多くの反響があり、ペルーからのものが大きかったとされている。
 この内容については、当労働問題研究所の尾崎理事長が取材を受け、幾つかの質問に答える形で構成されている。そうしたこともあって、当研究所のホームページ上で、ニッケイ新聞に掲載されたブラジル語からの翻訳を掲載することとした。翻訳者は永井康之氏である。
 なお、四世ビザ発給問題の経緯について、ブラジル日系コミュニティとの関係での簡潔な説明は、二宮正人「四世ビザの発給に向けて」NIKKEI Network(海外日系人協会)34 号、並びに第58 回海外日系人大会における公式宣言については同誌35 号を参照されたい。


解説:日系人の受入範囲を拡大する日本政府

 100 万人以上の外国人が日本で就労しています。二世及び三世の日系人は日本での就労を認める長期滞在ビザを取得でき、ブラジルやペルーのような南米諸国の日系人が現在日本の主に産業部門で働いています。日系人の長期滞在者数は10 年前に頂点に達し、当時は日系ブラジル人だけで31 万人に及びました。法務省は、安倍晋三首相の指示で、日系四世に対して特別なビザの発給を認める措置を急ぎ検討しています。
 この解説では日系ブラジル人の就労状況を専門にする尾崎正利労働問題研究所理事長の見解を紹介します。そもそもどうして、そしていつから日系人が日本に来るようになったのでしょうか。
 
 「1980 年代に、グローバリゼーションの流れの中で日本経済が拡大するのに伴って、人手不足が日本の深刻な課題になっていました。当時ブラジルはハイパーインフレに苦しんでいて、それで仕事を求める日系ブラジル人が大挙して日本に来るようになったわけです。1990 年には日本政府が3 世までの日系人に対する長期滞在ビザの発給を始めました。
 2008 年のリーマン・ブラザーズ証券の破綻に象徴される経済危機で在日ブラジル人の数は減少しました。経済危機が日本の製造業者に打撃を与え、不要となった日系人は日本を去ったのです。しかし、この2 年間に日系ブラジル人の数は再び増加しはじめました。現在、三世までの日系人の高齢化に伴って、四世に対する需要が日本の産業部門の企業で高まっています」
 
 提案されている新しい制度では、長期滞在ビザを得るための条件として、現在のワーキングホリデー制度に似た枠組で3 年間日本で暮らすことや、一定の日本語能力といったことがあるようです。こういった条件について先生はどのようにご覧になっていますか。
 
 「3 年間の就労を認める新制度に参加するに当たって、基礎的な日本語能力が要求されるかもしれません。この当初期間を終え、滞在期間を延長し、長期滞在の許可を得ることに興味がある方は、より高度な日本語能力の証明を求められるでしょう。新制度は日本語能力を過度に重視していると思います。実際に、日本で暮らし、働くには一定の日本語能力が必要です。しかし、多くの日系ブラジル人の若者が日本の製造ラインで働くことを受け入れているのは、国家的な経済危機の中でブラジルの就労条件が悪化しているからなのです。
 他にも、検討中の新制度では、年間の受入人数が1,000 人程度に制限される可能性があります。多くの国の日系コロニアが日本で働くことに関心を持つ日系4 世に対してこのような制限を課すことを懸念しています。個人で日本に行って働く人の数が減ることで、コミュニティ間の交流が徐々になくなって、日本の同胞との絆が弱まっていくのではないかという不安を抱いているのです。
 新制度の提案自体は歓迎すべきことだと思います。しかしながら同時に日本政府は、国際交流という文脈において、四世及び五世以降の日系人に対し、三世以前の世代の日系人と同じような形で、日本で自由に生活し、就労することを認める方策を検討すべきです」

[翻訳永井康之:CIATE(国外就労者情報支援センター)専務理事]




趣旨

NPO法人労働問題研究所では、事業活動の一つとして、日本企業の超国家化に伴う進出先での適正な雇用管理の達成、及びCSRの履行に必要な知識、並びに海外の労働組合と連帯活動をするために必要な知識、とりわけ労使関係規制について、セミナーを開きました。今回は海外進出日系企業の人事労務に必要な知識などについて、ブラジル及びタイについてとりあげました。

日時 2015年1月22日(木曜日) 午後2時から5時まで
場所 アスト津5階ホール

@ブラジル
 二宮正人
サンパウロ大学法学部教授、ブラジル国弁護士、明治大学法学部及び広島修道大学法学部特任教授

Aタイ

 タイの労使関係法と労使慣行  資料はこちら

 尾崎正利
青森中央学院大学大学院特任教授 NPO法人労働問題研究所理事長
 


講師のプロファイル

二宮正人氏
1948年上田市に生まれる。1954年ブラジルに移住。1972年帰化によりブラジル市民となる。
1971年サンパウロ大学法学部卒業後、留学先の東京大学大学院法学研究科で、1981年国際法の研究成果としての「国籍法における男女平等」(有斐閣)により法学博士の学位が授与される。サンパウロ大学法学部において教授として研究を行う一方、サンパウロにおいて弁護士事務所を経営し、日本から進出した企業のブラジル法人の設立並びに事業経営に関係する法律顧問として大きな信頼を得ている。また、日本の厚生労働省及びブラジル連邦労働省との密接な関係から、CIATEの理事長として、日本で就労するブラジル市民に対する情報提供などの支援を通じて、日本とブラジル間で大いに活躍されている。なお、氏は本研究所の海外(中南米)顧問に就任されている。

尾崎正利氏
1946年中津市に生まれる。関西大学法学部、及び大学院を修了後、三重短期大学法経科において労働法を担当し、並びに労働委員会(公益委員)を含め、三重県内の労働行政に約20年間参加した。2004年から青森中央学院大学大学院で、国際労働関係法の教授として勤務、現在は、特任教授として、並びに本研究所理事長として青森と三重を毎月往復している。最近の主たる研究領域は、国境を超える労使関係の法的枠組形成並びに労使の交渉関係におけるCSR或いはその他の国際的規制の動きを追跡しており、同時に大学院の指導として東南アジアを中心とする日系企業の人事労務管理の在り方もこうした研究領域の一つとして、学生の論文執筆をサポートしている。